所謂、カメラにおける露出の「三要素」というものがあります。
絞り・シャッタースピード・ISO感度のこと。
それらについては賢明なる先達がWebサイトや書籍で説明しておりますので割愛しますw
これに「ストロボ」が加わった場合、四要素になりますが、どんなに大きな光量の照明を使っても、「届く距離」と「届かない距離」というものが発生してきます。ファインダーから見えるもの全てには光は届きません。
これを逆に考えると、「届く距離」と「届かない距離」を別のレイヤーとして二層的な写真が撮れるということ。
夜景ポートレートなどに使われる、「スローシンクロ」と言われる撮影技法です。
夜景自体の撮影は微量の環境光を写すということで、1秒とか10秒とか30秒とか長い間シャッターを開放して撮影します。これに人間等の動体が加わった場合どうでしょう?
どんなにじっとしていてとお願いしても、どうしても動いてしまいますよね?
しかし、ストロボの届く距離にいる被写体に光を照射することによって、ブレなく止まって見えます。
何故でしょうか?
レンズを通った光がセンサーに記録されるのは光の強さ×時間によって決まります。
光の速さはまさに「一瞬」。ストロボで照射した光は強烈な閃光ですが、時間は「一瞬」なのです。
あえてスピードを数値化すると、機種にもよりますが、発光のピークに達するまで1/8000秒~1/20000秒なんて言われてます。カメラのシャッタースピードなんて目じゃない速さですね。
つまり、ストロボの届かない背景(全体)はカメラで時間をかけて露光し、ストロボの届く被写体はストロボの閃光で一瞬で露光する。
これが前述した「二層的な写真」です。
シャッターを長時間開放していると、動体は猛烈にブレて写りませんので、たとえば街中の雑踏などでも無人の街を演出したりできるわけです。
そこに「ストロボ」が加わると、その光を浴びた被写体のみが静止する。
不思議ですが、カメラの仕組み上、そう写ります(笑)
ただし、これができるのは暗い夜間だけです。
昼間ならどうするか?そんなに長時間露光してたら、明らかに白飛びしますw
それであれば、あえて暗くすればいいので、レンズにND(減光)フィルターを装着します。滝の流水を絹糸のように写すアレです。
【「四要素」具体的手順】
[準備]
1.絞りで被写界深度を決める。
2.カメラのISO感度は最低値の100でセット。(上級機種等ではISO50なんて設定ができるものも)
3.ストロボの光量はマニュアルで1/4でセット。
[調整手順]
1.ストロボOFFで撮影し、シャッタースピードで背景の露出を調整(被写体は暗いままでよい)。
2.ストロボをONで撮影し、ストロボの光量を調整する。
3.全体的に暗すぎると感じたときにはISO感度を上げる。明るすぎると感じたときにはNDフィルターで減光する。
上記でわかるとおり、1シーン撮影でまず決めるのは「絞り」。これが決まらないと、他の設定もすべてやり直しです。それは表現手法として「絞りは被写界深度を決めるもの」と割り切って書いておりますが、実際には絞ることによって全体の光量が変わってしまうからです。
ここで、いざ撮影となったときに、よほど場数を踏んでないと三要素の調整でも頭がパニックになるのに、要素が4つに、しかも二層のレイヤー撮影ということになると頭がこんがらがってしまうので、何を基準にするかというのは非常に重要だと思います。
なので、まずは画作りとして構図と絞りをFIXした状態から考える。次にシャッタースピードで背景の露出を決める。最後にストロボの光量で被写体の露出を決める。
実際のところ、当方は絞りはほぼ開放しか使いません。
背景が暗いなと思えばシャッタースピードを遅くしますし、被写体が暗いと思ったらストロボの光量を上げる。基本はその二つの操作だけです。
具体例を2代目HAPPY少女♪のゆいなちゃんを使って説明します。
・背景(テレビ塔など)についてはシャッタースピードで調整してこの明るさ。
・ゆいなちゃんは手前にあるメインストロボを照射して写しとめる。
・雪はゆいなちゃん背後にあるバックストロボを照射して写しとめる。
こちら、まさにスローシンクロを使用した夜景ポートレートの典型なのですが、スローシンクロの中でも「後幕シンクロ」という、シャッターが閉じる手前でストロボを発光させるということをやっています。
私なりの解釈ですが、図解するとこちらのような感じ。ストロボの閃光スピードをイメージしやすいように仮に1/20000としています。
ちなみに、シャッターが開いた瞬間に発光するのは「先幕シンクロ」と言います。所謂、ストロボの普通の設定です。
ぶっちゃけ、ストロボを照射するタイミングはシャッターが開いた後であればどこでもいいのですが、あえて「後幕シンクロ」にしている理由…
カメラの露光の性質として、後に撮ったものほど手前に写るという性質があります。時間が経つにつれて手前に光を上書きしてはっきり結像するわけです。
図で「何かいるけどはっきり写らない」という部分。暗いままの被写体が露光されてる部分ですが、これは暗い影のようになって写ります。これを「先幕シンクロ」で撮影した場合、どうなるでしょうか?
ストロボ照射されて鮮明に写った被写体の上にモヤモヤとした影が写ることになります。
おわかりでしょうか?つまり、「後幕シンクロ」とは、モヤモヤとした影を先に写しておいて、最後にビシッとストロボで露光した被写体を一番手前に乗せる形になるのです(伝わりますか?w)。
実際の撮影では、1/15くらいのシャッタースピードではそれほど気になるほどの影は出ないんですが、10秒、20秒と長時間露光してみるとわかります。
「後幕シンクロ」については、いまどきのTTL対応のクリップオンストロボでは当たり前についている機能、中にはカメラの内蔵ストロボでも対応しているものもあります。まずは実際にお試しください!できるだけ、長時間のシャッタースピードで。